「タカラトミー展」 ― 夢の玩具考 ―
オーギュスト・コントの発見した人間精神の三段階の法則は、玩具の発達の歴史をながめた場合にも、ほぼ、ぴったり当てはまるように思われる。すなわち、最初は「神学的状態」であり、次は「形而上学的状態」であり、最後は「科学的状態」である。『幻想の画廊から』(「玩具考 古き魔術の理想」より)/澁澤龍彦
2006年3月1日、日本の玩具メーカー大手、タカラとトミーが合併して、新会社タカラトミーができた。それを受け、先日まで渋谷パルコミュージアムでは、「タカラトミー展」を開催しており、私は最終日の21日に訪れた。
タカラと言えば、ライブドア堀江元社長が製作に関係したといわれる「人生ゲームM&A」(cf. Yahoo!辞書)が生産・販売中止になったというニュースが記憶に新しい。そのシリーズもののボードゲームの代表作である「人生ゲーム」、他にも「ダッコちゃん人形 」にはじまり、「リカちゃん」、「チョロQ」、「ベイブレード」、一方トミーの方は、「モノポリー」、「黒ひげ危機一発」、「ゾイド」、「トミカ」、「プラレール」、「Nゲージ」等々――。
仏作家ボードレールの言葉に(私の記憶が正しければ)、「玩具は芸術への小児の最初の入門である」というものがある。
単に右脳開発のための……といった商品コンセプトでなくとも、玩具、つまりおもちゃが私たちの子供時代にもたらした影響は絶大である。個人的に言えば、今となっては「幼少時代はなぜ、デパートのおもちゃ売り場のショーケースの前で執拗なくらい親に買ってくれとせがんだのだろう?」と思うけれど、昨年夏に美術館巡りのために箱根にひとり二泊の旅に出た際に立ち寄った「箱根おもちゃ博物館」で感じたことでもあるのだが、過去回帰的ノスタルジーと、ある種の幼稚性(アンファンティリスム)がもたらす収集癖、それにデパートのきらびやかな夢の演出とが、とてつもなく大きな魅力として小さな胸を満杯にしてしまったのだろうと思う。
cf.
「「花と緑の物語展」 ~東京都現代美術館(後編)」
「「サムライ魂でデパートを創れ!~近代百貨店誕生物語~」」
先にも挙げたように、タカラとトミーは合併直前まで両社共に子供はもちろんのこと、大人まで巻き込んでのロングセラー商品を多く開発してきた企業である。その発案の過程の中には単に利益追求だけでない、信念のようなものも多分に含まれているだろうと思う。企業合併のケースは様々だが、そのような競合他社同士の強みを合わせあうような2社の合併によって、両社の持つ強みが一層倍増されてゆくようなイメージさえ感じる。
ところで、教育心理学の用語に「ピグマリオン効果」というものがある(派生して、人形愛を「ピグマリオン・コンプレックス」と呼ぶこともある)。ギリシア神話に登場するキュプロス島の王ピュグマリオンが、ガラテアという自らの理想像である女性の彫刻をつくり、それが人間になることを念じ思いが叶うという一種の変身譚で、それをモチーフとして描かれた有名な絵画もあるが、この神話を語源として、「教師が期待することで、被教育者の成績が上がる」ということを唱えたアメリカの教育心理学者であるローゼンタール氏が命名したものだそうである。
幼少期の子供が飛行機のおもちゃなどを片手に、エンジン音を真似ながら擬似的に飛ばして遊んでいるのを見かけるに、レオナルド・ディカプリオが演じたハワード・ヒューズの映画『アビエイター』を思い出す。おもちゃには無限の可能性が秘められており、子供のみぞ持つ無限の可能性を引き出す「夢の玩具」としての力が宿っているものと信じている。暗い世相ばかりでは大人もつまらない。せめて新生タカラトミーの紡ぎ出す夢が、今まで以上に子供たちの夢を叶える夢の増幅装置として機能し、それを見守る大人たちも楽しめるようなエンターテイメントな世の中にしてほしいと思った。
カテゴリー: 美術展