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『遊学1・2』/松岡正剛(中央公論新社) ~芸術学に量子論!?~

 掲題の『遊学1・2』/松岡正剛(中央公論新社)、今日やっと2巻を読み終えた。感想を一言で言えば「難しかった」となるのだろうが、興味深い章も幾つかあり、"目を通した"だけでも良かったとしておきたい。

 この本は、1971年に創刊された、objet magazine『遊』(工作舎)という雑誌の初代編集長だった松岡正剛氏が、31歳のときに気になる歴史上の人物142人について書いた評をまとめた内容となっている。
 解説を高山宏氏が書いていているのだが、その中で「それにしても美術教育に量子論とは、と今なお思う人は多いだろう。(中略)本筋は俗に言う文と理の間の融通の自在さである」という件がある。

 一体何のことだか、これだけでは分からない。そもそも私には「量子論」というものが何なのかさえ分からない。文系出身だし……。言ってみれば、いみじくも、この「文系出身だし……」という発想を根本から否定するのが本書の特徴だと思う。

 『遊学2』の中の一章に、ドイツの物理学者マックス・プラントについて書かれた「量子のゆるい因果律」という項があるのだが、その冒頭で氏の面白いエピソードが書かれている。引用すると――、

 「そのころ神田神保町堀越ビル三階に教場をかまえていた美学校で、今後のカリキュラムをめぐる議論が百出した後、「じゃぁ、いったいあなたはなにを教えろといいたいんですか」に答えて、即下に「量子力学であるべきです!」といったところ、周辺に冷笑がわきおこった」
 ――というものなのだが、ここで言われた「美学校」こそが、かつて村上龍氏も授業を受けたことがあるという、あの石井恭二氏率いる現代思潮社(現、現代思潮新社)の創立十周年記念事業として、2002年に惜しくも亡くなられたアングラ界の鬼才、川仁宏氏によって創られた絵の学校なのである。

 "美学校"だというのに、そこに招聘された教師・講師陣のラインナップたるや――、澁澤龍彦、種村季弘、松山俊太郎、埴谷雄高、瀧口修造、加藤郁乎、中村宏、寺田透、寺山修司、唐十郎、土方巽、中西夏之、赤瀬川原平、鈴木清順etc――。

 澁澤龍彦が美学校で教鞭をとったというエピソードは以前に読んではいたものの、結構前のことになるが、洗足学園(ジャズ科)の講師として山下洋輔氏や渡辺香津美氏が招かれたというニュースを聞いて驚いたことがあったが、"美学校"の講師陣を今の作家に例えればどのようなキャスティングとなるだろうか?実は本書の著者、松岡正剛氏も1975年に教鞭をとっていたことがあるのだそうだ。

 また、氏のWEBサイトの書評の中で、高橋巌氏の『神秘学序説』に触れたものがあった。そこにもそんな"美学校"のエピソードがあったが、実は高橋巌氏の本、私も高校時代、妙にオカルトかぶれて古本屋で買ってしまったことがある。『神秘学講義』(角川書店)というものだったが、内容の方はかなりマニアックだった記憶がある。

 1970年代という時代は私が生まれた年代でもあるのだが、日本の文化史・文学史上で言えば、ちょうど文学に政治が介入し学生運動とイデオロギーをテーマとした60年代の風潮が、あさま山荘事件を一つの区切りとして幕を降ろすかに見えた矢先の三島由紀夫の自決や、日本万国博覧会(大阪万博)に始まり、ジョン・レノンの射殺事件で始まった80年代を迎えるまでの、文化史的に言えば、ある面での変革期でもあったように思われる。

 列挙し、数えあげればキリのない程の様々な実験・試みが図られた時期だったと想像する。60年代終わりの頃、澁澤龍彦責任編集の血と薔薇が創刊され、唐十郎責任編集の『月下の一群』が創刊され、今野裕一氏のペヨトル工房が創設し『夜想』の創刊まで――、とにかく私が想像する限りでは、そうした文化的活動の過渡期だったのではないか?と思えるくらい多くの言説が生み出された、勢いのある時代だったように思う。

 冒頭でも言ったが改めて言うと、この本の著者松岡正剛氏の創刊した、objet magazine『遊』も1971年発行である。最近では、出版不況という名の元に近年のリブロポートやトレヴィルの解散、『太陽』の休刊、京都書院や博品社の倒産などに象徴されるように、そうしたある面で(単に売上や企業規模だけでなくて)力強いというか、勢いのある出版社や雑誌をあまり見かけなくなった気がする。それらの雑誌や文化というのは、コレクション的な意味合いもあって、言い換えれば「消費の文化」でもあったような気がして、そうした類のものが迎合されない今の時代は、単に流行という要素もあるのだろうが、やっぱり本質的に不況なのかもなとも思った。

カテゴリー:書評

投稿者 cyberpoet : 2004年02月28日 05:30

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